さしで話しようや

忘れられないお客様

ずいぶん昔の話です。
当時かなり斬新でかっこい三階建ての家が新発売。新聞に広告が掲載され、直後の電話問合せや資料請求などの反響があった。

その中のK様は、土建屋さんの社長さんで身長180㎝超 筋骨隆々(死語?)濃い顔で大変迫力のあるお方。

奥様は主人とは正反対でちょっと天然ボケのほんわかしたご様子。二人の間には当時中学生の年頃の娘。(奥様似で同じ鼻をしている)

新商品を大変気に入っていただき、無競合で契約に。着工後は土建屋の部下が担当となり、毎日のように電話がかかってきた。

しかし、なんだかんだで完成までこぎつけた。工事は現場監督が対応するので、そざかし大変だっただろう。

支払いはオール現金。契約 着工 上棟 完成のタイミングで1/4を頂くルール。

これまですべて滞りなく入金されていた。

工事完成を確認、入金完了をもって、鍵を渡す(引渡し)となる。最終金回収は営業の役目である。

最終金振込の説明の件で連絡をすると、お金の話は社長(K様)でないとわからないとのこと。

ほどなくして折り返し連絡があり、K様へ要件を伝えると、「わかった。さしで話しようや」

いやな予感を胸に指定された時間に会社へ。初めて応接室へ通される。

部屋の中には〇力団関係の本がズラリ、日本刀、動物のはく製、木製の棚には高級ブランデーやら高そうなグラス類がならぶ。

なんだろう。威圧感のある雰囲気。少し息苦しくなる。約束の時間に30分ほどまたされる。

扉があき、どやどやと人が入ってきた。チンピラ風が3人、土建屋の部下、K様の全部で5人。さしで話するのじゃないの?

最終金の説明をする。

今まで振込いただいた金額 日付 契約書を説明。これから振込いただく残金の明細 諸費用等の説明をゆっくりと行う。

目を閉じ黙って聞いているK様。

聞いているのかいないのか?周りの連中も聞いていないようす。説明は5分ほどで終わる。

「誠意をみせてくれ」K様が目を閉じたまま口を開いた。

は? 誠意とは

「おまえ、とぼけんな」チンピラABCがいきり立つ。

といわれましても。

部下が精算書の金額を指しめす

「このあたりなんとかしろや」

K様は目を閉じたまま。部下は無表情。ABCが睨んでくる。

こわいこわい。なんなんだこれは。

300万ちかくの値引き要求? 要求はのめない。

できません できません できません 

「まけろまけろまけろ」

できません できません できません いいながら無い知恵を絞る。

複数人の囲まれてはいるが、不思議と恐怖感はない。K様はお客様だ。痛い目にはあわないだろう。

考える考える、必死で考える。上司へ連絡するか?連絡したらしたで社内的にややこしくなるし、怖い上司に相談するのはごめんだ。

どうしよう。上司のほうがよっぽどこわい。

「誠意をみせろ まけろまけろまけろ」

まけろ できません が延々とつづく のどかわいた。テーブルに置かれた冷めきったお茶が視界の隅にはいる。

口の中はからから。

最終金を値引きしたなんて聞いたことがないし、そんな前例あるのか?

いったん持ち帰るとなると交渉が長引く可能性がある。引渡しが遅れる。

遅れると家賃がどうの、家具が納品されるのでいれさせろ、など要求はエスカレートするだろう。

どうしよう。

譲歩したら負けだ

まけろ誠意みせろまけろ 応酬がえんえんとつづき、頭がぼうっとしてくる。

思考力が低下してきたか。そういえば、昼ごはんは食べてなかった。

ふいにK様が

「なら、いくらならいいんだ?」

まっすぐにこちらを見つめる。

ここだ ここしかない。

6桁を指し、この金額なら 声がかすれる。

「わかった。その数字を切り上げて40で手をうとう」

手をうとうって。なにそれ。でも解放されるならいいや。

40万か。300万にくらべたらずいぶんましだ。

上司には300万のところを交渉して交渉して、なんとか40万にしました。がんばりました。なんとか承認してください。って泣きつくしかない。

いやだけど、最悪は自分で会社に補填するしかない。

K様が言葉を発するとABCは席を立って応接室をでていく。

「おまえとはもう会うこともないだろう」

なんだよ、さしで話しようっていったくせに。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

あなたにとって良い一日を~まめおやじ


コメント

タイトルとURLをコピーしました