こんにちは。元住宅営業マンまめおやじです。
住宅営業の仕事は、ただ契約を取るだけでは終わりません。最も大変なのは、最後の最後に発生する予期せぬ交渉やトラブルです。
本記事では、ある大手土建業の社長K様との最終金交渉をめぐる緊迫のやり取りを紹介します。
- 現役営業マン
- これから住宅業界を目指す人

1. 新商品の発売とK様との出会い
私が担当していたのは、当時としては斬新なデザインの3階建て住宅。
その広告が新聞に掲載されるや否や、多くの反響が寄せられました。その中の一人がK様。
K様は土建業を営む社長で、身長180cm超、筋骨隆々な体格。精悍な顔つきで、圧倒的な存在感を放つ人物でした。
一方で奥様は正反対で、ほんわかとした天然ボケの雰囲気。中学生の娘さんは母親似で、同じ鼻をしていたのが印象的でした。
K様はこの新商品を一目で気に入り、無競合で契約。支払いは全額現金で、契約・着工・上棟・完成のタイミングで1/4ずつ支払うルール。ここまでは順調でした。
2. いよいよ最終金の回収へ
家は無事完成し、残るは最終金の入金と引き渡し。最終金の説明をするため、K様に連絡を入れると、
「わかった。さしで話しようや。」
という言葉が返ってきました。何か嫌な予感がする……。指定された時間にK様の会社へ向かいました。
3. 威圧感漂う応接室
会社に到着すると、初めて応接室へ案内されました。部屋に入った瞬間、異様な雰囲気を感じました。
壁一面に並ぶ○力団関係の本、日本刀、動物の剥製、高級ブランデーとグラスが並ぶ木製の天井まである大きな棚——。
(なんだ、この威圧感は……)
息苦しさを感じながら着席した。約束の時間から30分経過したころ、扉が開き、どやどやと5人が入ってきました。
・チンピラ風の男3人
・K様の土建業の部下
・そしてK様
(……さしで話じゃないの?)
4. 「誠意を見せろ」—最終金交渉開始

私は準備してきた書類を取り出し、これまでの振込履歴、追加工事の内容、残金の明細をひとつずつ丁寧に説明しました。
K様は目を閉じたまま、微動だにしません。
説明が終わり、沈黙が訪れました。
その瞬間——。
「誠意を見せてくれ」
K様がゆっくりと口を開きました。
「は?」
私は思わず聞き返してしまいました。
「おまえ、とぼけんな!」
チンピラAが声を荒げる。
部下が精算書を指さしながら言います。
「このあたり、なんとかしろや。」
K様は依然、目を閉じたまま。チンピラ3人は睨みつけてくる。
「まけろまけろまけろ」
これはまさか、値引き交渉なのか?
なにやら電卓をもちだし、金額を見せられた。
—300万円。
最終金から300万引いた金額が表示されていた。
ありえない。最終金でそんな値引きをした前例はない。というか、最終金はよほどの理由がない限り値引きはしない。
「申し訳ありませんが、値引きはできません。」
5. プレッシャーの応酬
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「誠意を見せろ!まけろまけろまけろ!」
何度も繰り返される要求。
部屋の空気が重くなる。
視界の隅に、冷めきったお茶が映る。のどが渇く。でも飲めない。
「どうしよう。」
ここで譲歩すれば、他の顧客にも影響が出る。社内でも前例を作るわけにはいかない。
しかし、長引けば引き渡しが遅れ、さらなる要求が出るかもしれない。
そして何より、怖い上司に相談するのはもっと嫌だ。
6. 逆転の一手
まけろまけろと声を荒げられ、だんだん慣れてきた。声は大きいが、威圧感は感じなくなってきた。
しかし、部屋に入ってからどんだけ時間が過ぎたのだろう。頭がぼうっとしてきたそのとき、K様がふいに目を開けた。
「なら、いくらならいいんだ?」
K様が初めて、真正面から私を見た。
ここしかない!
私は小さく数字を指し示し、声を絞り出した。
「この金額なら……。」
K様はしばらく私を見つめたあと——。
「わかった。その数字を切り上げて40で手を打とう。」
7. 解放と後始末

チンピラ3人が黙って立ち上がり、部屋を出ていく。
K様は最後にこう言った。
「おまえとはもう会うこともないだろう。」
その言葉に、私は心の中でつっこんだ。
(さしで話そうって言ったの、あんただよ)
部屋をでて、クルマに乗り込み、時計を見た。4時間以上が経過していた。
私はすぐに会社に戻り、上司に報告した。
「300万のところを交渉して、なんとか40万にしました……。」
上司に怒られるかと思ったが、意外にも承認された。
「あのお客様で40万なら合格だ。俺が同行しても、同じだったと思うよ。よくやった。」
勝手に40万で話をつけてしまったが、事後承認がとれて、ほっとした。
その日、私はぐったりと疲れ果て、帰宅後すぐに眠りについた。
8. まとめ:この経験から学んだこと
この経験から住宅営業として大切な教訓を得た。
- 最終金は安易に値引きしない
- 要求があったら持ち帰る
- 譲歩しすぎるとさらなる要求がくる
- お金の交渉は上司に同席してもらう
今回の事例では、単純な値段交渉でした。
契約時の値段交渉はよくある話ですが、最終金で値段交渉されたら、たまったものではありません。
家具をいれさせろだの、アパートを出る日が決まってるだの、言ってくるお施主様はいます。
少しでも何か違和感を感じたら、一人で抱えこまず、上司や先輩に相談しましょう。
営業の仕事は、単なる売買契約ではなく、最後まで責任を持つことが求められます。
今、現役で住宅営業の方や、これから住宅営業を目指す人には、ぜひこの話が少しでも参考になればと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
あなたにとって良い一日を~まめおやじ

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